貧困と代理母という選択。

NHKのドラマ「燕は帰ってこない」を興味深く見ている。
「とうとうここまで来たか・・・」。
それをNHKが取り上げることに時代の流れを感じる。
原作は女性の生き方を軸にさまざまなテーマを投げかけている作家桐野夏生さん。

私が代理母の存在を強く意識したのは
ロシアのウクライナ侵攻が始まったばかりの2022年だった。
ウクライナの代理母たちが戦禍の中出産した赤ちゃんを
オーダーした両親に渡すためにポーランド国境まで必死で行った・・そんな話をネットで読んだ。
ウクライナは世界で唯一代理母を法的に認めている国だということを、その時知った。
それはつまり、ウクライナがとても貧しい国であることを物語っている。
善意で自分のお腹を貸す人なんていない。
貧しくて、大金を稼ぐことができない女性が選択する一攫千金的な「お仕事」なんだ。

「燕は帰ってこない」は、日本では法的に認めていない代理母を
アンダーグラウンドの世界で取引する女性の心の葛藤を産んであげる貧しい側と
産んでもらう裕福な側の両面から描いている。
月収14万から抜けられない派遣で働く女性が、そこから抜け出す手段。
もしかしたら風俗の延長にある仕事かもしれない。

ドラマでは依頼する裕福な夫婦の心の葛藤も浮き彫りにしていく。
夫婦の義母が代理母に会い、つわりで苦しむ姿を見た後
「後味が悪い」と嫁に訴える場面があった。
息子の遺伝子を引き継ぐ子どもを手に入れるために
自分たちがしていることに対する罪悪感を感じる場面。

一方代理母は人工授精に成功して妊娠した後
自暴自棄になって過去の不倫相手と寝たり
女性向け風俗で買った男性と寝てしまう。
結果、子どもの父親が誰かがわからなくなってしまうことになる。

産む側、産ませる側の心理的葛藤がグロテスクで
美しい出産物語からかけ離れている。

私が一番おもしろいと思ったのは
産ませる側の裕福な妻の親友で春画絵師の女性。

代理母の行動を賞賛し、応援すると宣言する。
女も自由に自我を出して生きていいんだ・・そんな気持ちが伝わってくる。
ここにとても共感する。

今後の展開が楽しみだ。

ちなみに代理母を認めている国はメキシコ、コロンビア、カナダなど複あるが
アメリカの一部の州、ロシア、ジョージア、ウクライナは商業的な代理出産が合法化されている。
特にウクライナでは、婚姻関係にある異性カップルであれば、
外国人でも代理出産を依頼できる。代理母にとてもオープンなのである。
でも、それはウクライナがとても貧しい国であることを意味している。

一方日本では「代理出産を依頼して精子、卵子提供者を
両親とは認めない」としているが、法的規制はなく、
代理出産により出生した子どもに関しても特別の規定はない。
いわば法の網目であり、ドラマのようなアンダーグラウンドでの取り引きも
実は横行しているのだと思う。

貧困女子が代理母を選ぶ日本とウクライナ、どう違うのだろうか?
日本の女性はどこへ向かっていくのだろう。
社会心理学的に興味深い。

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